AIツール導入で泣き出した中年社員

昨年、ヒアセイ・システムズの創業者クララ・シーは、保険関係の取引先への定期訪問に立ち会っていた。ヒアセイは15万人以上のファイナンシャルアドバイザーや保険アドバイザーに対し、顧客との関係や作業工程の改善のための人工知能(AI)を使ったツールを提供している。
この時の訪問先は従業員4人の小さな会社で、うち2人は保険金の滞納と契約更新に関する連絡や手続きだけを担当していた。つまり折り返しの連絡などまず期待できない電話をひたすらかけ続けるといった、非生産的で手間と時間ばかりかかるやり方で業務を進めていたわけだ。
そこでヒアセイ側は、人力に頼った顧客への連絡作業をデジタル化するためのAIを使った新しいツールを提案した。1人1人に電話をかけるのではなく、何十人もの顧客に支払期限を過ぎた旨をメールで一斉通知するというツールだ。
使い方を説明していると、中年の男性アドバイザーがいきなり泣き始めた。
AIツールのせいで自分の仕事がなくなってしまうと思われたのではないか──。シーたちは初め、そう懸念した。というのも、それが機械学習を使ったツールの導入を前にした労働者のよくある反応だったからだ。
ところがこの時の涙の理由は違った。「これはすごい」と男性は言ったという。「20年もの間、私は時間を無駄にして何をやってきたんだろうか」